第6報 不拡散へ高まるIAEAの役割への期待(2013.4.26)

第6報 不拡散へ高まるIAEAの役割への期待(2013.4.26)

国際連盟からの遺産 -軍備の無い世界という未完の理想―

(国連欧州本部前の国際連盟時代の遺産モニュメント、
軍備の無い世界を象徴。2013年4月26日。撮影:RECNA)

開会 から5日が過ぎ、ちょうど会議スケジュールの半分を終えたところで、週末を控え、準備委もやや「中休み」(「中だるみ」ではないことを切望する)という感じで、予定よりも議事が先行しているために、「時間調整」として、会議は午前中のみであった。

NPTの三本柱のバランス

しかし、これは決して単純に「することが無い」わけではなく、実はなかなか厄介な事情も絡んでの決定である。NPTでは、「核軍縮」、「核不拡散」、「原子力の平和利用」の三つの条約の目的が、しばしば「三本柱」と呼ばれ、いずれも同じく重要であり、この「三本柱」は対等に扱われなければならないというコンセンサスが締約国の間で共有されている。そのため、会議においても、「核軍縮」(クラスター1議題)、「核不拡散」(クラスター2議題)、「原子力の平和利用」(クラスター3議題)には、それぞれまったく同じだけの時間が割り当てられている。そして、いずれかの議題の検討において、議論が出尽くし、発言を求める参加国が無くなった場合に、今回のように予定より早く議事を終了させることはできるが、その分余った時間を、他の議題の検討時間の延長に充てることは、「三本柱」の公平の原則に反するとみなされかねないのである。それだけこの「三本柱」の間のバランスは重要視されていると言わなければならない。このブログは核軍縮に関心を集中して報告してきたが、今回の会議の一般演説においては、実際には、原子力の平和利用の促進と、原子力分野での技術協力の拡大強化に力点を置いた国が少なくなかった。多くの開発途上国にとっては、安心して原子力の平和利用を進めることが最大の関心かもしれない。

第5報にクラスター1でのブラジルの発言を取り上げたが 、それは具体的措置を行程表の下に置くよう主張するものであった。実はその前に、25日の午前にロシアが具体的措置について発言していたので取り上げておきたい。要約すると次のような内容であった。核兵器が非人道的な兵器であることは分かりきったことであり、今さらそれを改めて指摘するために時間を費やすべきではない。現実に核兵器を削減するために必要な具体的な方策についてこそ議論すべきである。特に財政面での制約をどのように克服するかという重要な問題については、ほとんど協議が進んでいないので、むしろ現実に核軍縮の促進に必要な技術的、経済的な裏付けの確保に議論の力点を移すべきである。また、これに対し、イランが、技術的な議論を先行させようとするのは、核兵器国が核軍縮の実施を遅らせるための隠ぺい工作に過ぎないという批判を行った。イランの批判はともかくとして、核軍縮の推進に必要な、財政的、制度的な問題も含めて、技術的な側面にも国際社会がきっちり対応してゆくことは、それ自体は重要なことである。

IAEAの役割への共通した評価

26日の午前中には、クラスター2(核不拡散、保障措置、並びに非核兵器地帯)の議論が始まった。ここまでの議論では、非同盟諸国とEUを含め、発言したほとんどの国が非核兵器国の原子力関連施設を監視する国際原子力機関(IAEA)の保障措置(セーフガード)の強化と、IAEAにより広い権限を与える追加議定書の重要性を指摘した。また、非同盟諸国は、核兵器保有国も、同様の措置を受け入れることで、核兵器の材料となる高濃縮の核分裂性物質の生産と、解体した核兵器から取り出した核分裂性物質の保管と民生利用を国際的な監視下に置くべきであると主張している。これは実質的に現在検討中で、今回の会議でもしばしば言及されている兵器級核分裂性物質生産停止条約(FMCT)の検証制度とほぼ同じものである。そして、多くの国が、このような制度を実現するための技術的な側面を検討する目的で、国連総会が設置した政府専門家グループ(Group of Government Experts)の活動に期待を表明していることは、具体的なステップとして当然であろう。

ちなみに 、クラスター1特定議題(核軍縮、安全の保証)においても、主に非同盟諸国などから、NPT再検討プロセスの中に、この議題 に関する小委員会を設置し、集中的に検討すべきであるとの提案がなされている。また、早急にCDで検討すべきであるとの意見もあった。効率性という観点からは若干疑問も残るが、26日の午前のセッションで発言したウクライナのように、NPTの再検討プロセス、CD、国連総会等、使用可能なすべての場で追求すべきという、思い切った意見もあった。このように、特に重要な問題については、別に検討の場を設け、専門家を交えて協議するというのも有効な選択肢であろう。

従来、多国間の軍縮交渉に関しては、その理念と方向性、原理原則のような議論は国連総会で行い、具体的、技術的な詳細な交渉はCDで実施するというある程度明確な役割分担があった。しかし、CDの機能不全が、現在の多国間軍縮交渉に混乱をもたらしているという側面は否定できないだろう。そして、それが、具体的なステップやその行程についての議論の進展を困難にさせており、ブラジルやロシアの発言の遠因であるとも言えるだろう。幸いなことに、クラスター2議題においては、IAEAという、技術的、専門的な議論のベースとなりうる組織が存在しており、ここまで発言してきたすべての国がその有用性と強化の必要性に言及している。「核エネルギーを軍事目的に利用させないためには、どのような手段が有効であるのか」、ここから核軍縮の具体的な進展のひとつの手掛かりがつかめることを期待したい。