第1報 「軍縮分野では、前進しないときは後退する」(2013.4.22)

第1報 「軍縮分野では、前進しないときは後退する」(2013.4.22)

UN Office at Geneva(再検討準備委員会の会議場(国連欧州本部内)。2013年4月22日。 撮影:RECNA)

よく分からない理由のために議長席周辺が慌ただしかったが、開会が遅れ、10時開会の予定のところ会議は10時55分に始まった。新旧議長の交代があって、予定通りルーマニアのコーネル・フェルーツァ大使が第2回準備委員会の議長に就任した。アンジェラ・ケイン国連軍縮局高等代表の開会あいさつ(英語)の後、いくつかの議事事項を決定したのち、第1日目の一般討論が始まった。午前の部に8か国・グループの一般討論、午後の部に17か国・グループと1国際機関の一般討論があった。この日のうちに米・ロ・英・仏・中のすべての核兵器国が発言した。有力な国家グループである新アジェンダ連合、非同盟運動の発言もあった。日本政府の一般討論も行われた。

いくつかの決定事項を伝えておこう。
①第3回準備委員会は2014年4月28日(月)~5月9日(金)にニューヨークで開催される。
②第3回準備委員会議長はペルーのロマン-モレー大使とする。
③2015年再検討会議は2015年4月27日(月)~5月22日(金)にニューヨークで開催する。

停滞状況を反映したケイン高等代表の演説

昨年の開会演説(和訳)と比較したとき、アンジェラ・ケイン高等代表の開会発言は慎重なものであった。昨年の演説は「軍縮に法の支配を」と訴えた国連事務総長の5項目提案にも触れながら、2010年再検討会議の合意文書に登場した核兵器禁止条約や国際人道法の話題を積極的にとりあげた。国際人道法については「NPT 再検討プロセスに国際人道法が到来し、留まっている」と高揚した口調で述べた。しかし、今年の演説には核兵器禁止条約や国際人道法への言及は一切無かった。また、昨年には核保有を目指す新しい国についての憂慮を示すと同時に、核兵器国が核兵器の近代化を進めていることへの憂慮を述べることを忘れなかったが、今年は前者を強調するに留まった。

ノルウェーが127か国を集めた「核兵器の人道的影響」の国際会議を3月に開催した直後の時期に、ケイン高等代表が国際人道法について触れなかったのは何故だろうか?そこにはさまざまな意味を読み取ることが可能であろう。一番の理由はノルウェーの動きが、国連の外に有志国家による条約交渉の場を生み出す可能性が出てきていることへの配慮ではないかと思われる。国連加盟国全体を代表するケイン代表の立場としては、NPT合意の文脈だけで語ることのできない局面を迎えているという認識を反映せざるを得ないであろう。だとすれば長崎の私たちにとって変化は悪いことではない。とはいえ、第0報で述べたノルウェーからメキシコへのバトンタッチがそのような展開になるという見通しについて、私たちはまだ何の情報も持っていない。

ケイン演説の慎重さは、過去1年における核軍縮・不拡散の状況の停滞振りを反映していることも否定できない。2012年中の開催を決定した中東会議について、ケイン代表が「早ければ今年中に開くことができる」としか演説の中で言えなかったのは、招請者の一つである国連にとっては大きな痛手である。たとえ小さくても合意したことについて前進を勝ちとらなければNPTプロセスそのものの信頼性が損なわれるであろう。そのような小さな前進をいくつか示したものの、「NPTの場でいま最も必要とされているものは、いかにのろく、いかに困難であっても、前に進むという感覚を取り戻すことである」というのがケイン代表の基本認識であった。そして、ダグ・ハマーショルド元国連事務総長の1960年の次の言葉を彼女は引用した。「この(軍縮の)分野においては、停止は存在し得ない。前に進まなければ、すなわち後退するのである。

5核兵器国の発言が出揃う

午前中に米国が、そして午後に他の4核兵器国が発言し、5核兵器国(P5)の冒頭の一般演説が出揃った。概して言えばP5各国の発言に新味はなかった。NGOや積極的な国々は、2015年再検討会議に向かう準備委員会の役割について、繰り返し次のように言っている。「準備委員会は、単に2010年合意の履行を点検することではなくて、将来に向かう実質的な新しい合意を形成することが必要である。」しかし、P5の発言の共通の特徴は2010年の行動計画を自国が忠実に実行していることを強調することであった。彼らが特に重視しているのは、「核兵器国は上記(注:a~gの7項目がある)の履行状況について2014年の準備委員会に報告するよう求められる」(行動5)、「すべての核兵器国は、信頼醸成措置として報告の標準様式について可能な限り早期に合意する」(行動21)という約束の履行である。

イギリス以外の4か国は発言の中で、そのような合意を履行するためのP5会議が継続されていることに触れた。実際、今回の会議の直前、4月18~19日に第4回のそのような会議がジュネーブにおいて開催され、共同声明も出されている。中国の演説(英語)は、P5会議で設置された「核に関する重要用語の定義集」作業グループ(議長:中国)が2015年再検討会議に結果を報告する予定であると述べている。このような作業が信頼醸成上必要なことは認めるが、それを5年間の成果とするのでは話にならない。上記の行動5の7項目にしても、履行達成に関する基準が極めてあいまいであり、いくらでもお茶を濁すことができる。P5会合が保守的な場ではなくて積極的な場になるためには、もっとオープンな場になる必要がある。

P5の発言のなかで注目点をいくつか拾っておきたい。まず、ロシア英語)が中東会議延期について強い怒りを述べているのは印象的であった。まず、米・ロ・英・国連という共同招請国に「延期する権限はない」と断言し、「ロシアは同意していない」と述べた。そして、「我々も延期に同意したかも知れないが、全ての中東諸国の同意を得た後であり、新しい日付の発表を伴うものでなければならない」と主張し、「すぐにも日付を決めることを主張する」と述べた。今回の再検討会議で注目点の一つとなろう。

フランス英語)が暗にオスロ会議を批判していると思われる強い言葉を発した。「このような(核兵器のない)世界を達成する条件は、具体的な手段によって導かれた段階的で集団的な努力の結果でなくてはならない。最近のとあるイニシャチブ(複数)が企てているような、今回の会議のような既存の場を傷つけ、2010年行動計画のステップ・バイ・ステップのアプローチに疑問を投げかけることは、核軍縮を前進させないであろう。」

本ブログの【短信1】で中国の「先行不使用」政策に変化があるかどうかに注意を喚起したが、中国の一般演説(英語)ではそのような変化はまったく見られなかった。「中国はいかなる時においても、いかなる状況下でも、核兵器の先行不使用の政策を順守する。また、非核国や非核兵器地帯に対して、無条件に中国は、核兵器を使用したり使用の威嚇を行なわない」と述べた。余りにも同語反復なので、もう少しフォローする必要を感じているが、重要な外交の場における明確な発言である。