第5報 包括的な要求と一歩一歩の要求は両立する(2013.4.25)
会議4日目の午前は、昨日に引き続いてクラスター1議題(核不拡散、核軍縮、並びに国際安全保障に関連する条項の履行問題、及び安全の保証問題)についての意見発表があり、19か国・グループが発言した。この議題は午前中に終了する予定であったが終わらず、午後に入って追加して10か国・グループが発言した。午後4時過ぎになってクラスター1特定問題(核軍縮、安全の保証)へと議事が移り、10か国・グループが発言した。前回の準備委員会にも同じ印象を受けたが、この2つに議題を分けることに余り有用性が感じられない。特定問題で発言希望国は多くなく、会議は30分の時間を残したまま閉会となった。明日も午前は同じ議題に当てられているが、次の議題へ移る可能性がある。
非人道的影響の共同声明についての余波
会議は概して一方通行の演説であったが、昨日の「核兵器の非人道的影響に関する共同声明」に関して日本政府の弁明や発表国である南アフリカの発言など、興味深い余波があった。日本政府は午前のセッションの6番目に予定の順序で発言し、南アフリカは19番目に予定外の発言を求めたように見えた。
聴きながらのメモであるが、日本政府は共同声明に賛同しなかったことについて、「日本は真剣に、真摯に南アが発表した声明を検討した。唯一の被爆国として核兵器使用の被害を理解している。声明の基本的内容や、そこで言われている核使用の短期的影響、社会経済的影響についての内容を支持する。しかし日本の置かれている状況を考慮すると賛同できない。日本は声明の修正について協議をしたが合意には至らなかった。将来、同じテーマの声明が出た際は賛同する可能性を追求したい」というような説明を行った。相手があることなので南アなど他国との協議の内容をすべて明らかにできるとは思わないが、「置かれている状況」や「修正」と述べていることの内容について、日本の市民、とりわけ被ばく者、そして広く世界の市民に説明する必要がある。「状況によっては核兵器の使用が許される」という立場が説得力もつとは考えにくいが、そのような立場は、日本政府の意に反して、北朝鮮の核兵器開発を許さないという国際世論を弱めることになるだろう。
同じように聴き取りのメモであるが、南アフリカ代表は、直接的に日本に反論する形ではなく次のような趣旨を述べた。「核兵器の人道的側面の問題はグローバルな問題であって、すべての国家が取るべき方向性を示すものであり、特定の国が置かれている個別の環境の問題を持ち込むべきではない。」この発言は、日本政府が修正協議の中で日本の「置かれている状況」という論理を展開しながら文言の修正を強く求めたことに反論する意味があったと推察される。
午前の会議の発言国にスイスが含まれていた。スイスは第0報で述べたように、赤十字国際委員会を擁し、核兵器の非人道的側面における国際世論を先導してきた。この日の発言(英語)においても、前日の77か国共同宣言や3月のオスロ会議を引用しながら基本的な立場を強調した。
「私たちは、昨日、77か国を代表して南アフリカが発表した共同声明を全面的に支持します。スイスは、核兵器は安全を生み出すものではなく、国際社会、そして人間社会への脅威であると確信します」「核兵器のいかなる使用も防止すること、したがって核の惨害を防止することは、みんなの責任です。実際、NPT第6条はすべての締約国が核軍縮を進めることを要求しています」「核兵器の使用を防止するとともに禁止し、究極的には他の大量破壊兵器と同様に核兵器を廃絶するためには、より具体的な手段と道具を開発することが必要です。スイスは核兵器のない世界という共通の最終目標への道を拓くために、核兵器の漸進的な非正統化の努力に貢献し続けます」。
「ステップ・バイ・ステップ」の硬直を乗りこえる
核兵器の使用を絶対的に否定するという原則的な立場と、それを実現するために具体的な措置を講じてゆくこととは、決して矛盾することではない。それを、ことさらに対立的に説明し続けているのは、日本政府や米国やフランスであるように見受けられる。スイスは発言の中で、スイスが力を入れている2つの具体的措置について説明した。
一つは、未だに数分の中に核兵器を発射できる態勢を維持している高度の警戒体制を緩和させる、いわゆる「警戒体制の解除」(ディ・アラーティング)の問題である。スイスはチリ、マレーシア、ニュージーランド、ナイジェリアと5か国で「ディ・アラーティング・グループ」を形成してこの問題に取り組んできた。2010年合意の行動計画の中でも、行動5e(和訳)として「核兵器システムの作戦態勢をいっそう緩和すること」が求められ、核兵器国はその努力の結果を2014年準備委員会で報告することが義務づけられている。グループは昨日の午後のクラスター1会議でこの問題で共同声明(英語)を出している。スイスは発言の中で、米ロが最低限の取り組みとして2015年までに警戒体制を緩和するように求めた。
スイスのもう一つの取り組みは、核軍縮を逆戻りさせないという「不可逆性の原則」をいかに守らせるかという問題である。これについては、スイスは今回の会議に単独で作業文書「2015年再検討会議における不可逆性原則の効果の強化」(WP.32)(英語)を提出した。作業文書は、不可逆性の順守を明らかにするために、保有核兵器に関する包括的で正確な情報を定期的に提出するという核兵器国の誓約、核兵器国が原子力平和利用と説明している分野における査察の拡大、核兵器計画から外された核物質の恒久的な保障措置が確実にできるように国際原子力機関(IAEA)の検証制度を強化すること、などを課題として掲げている。
このようなステップ・バイ・ステップの措置と非人道性を基調とする核兵器禁止への包括的なアプローチに関して、2つは対立するものでないことを、午後のクラスター1会議でブラジルが発言した。「主に核兵器国が主張する段階的アプローチと核兵器禁止条約(NWC)の作成により核軍縮を達成しようとするアプローチは対立するものではなく、その違いを論じることはあまり意味はない。仮にNWCを作成するにしても、条約の交渉にはやはり行程表が必要であり、順を追って進めるという意味では段階的アプローチと本質的に異なることはない。本当に重要なのは、どちらのアプローチを選択するかということではなく、核兵器の廃絶へ向けて明確な行程表を作成し、ある程度の柔軟性はあっても良いが、具体的なタイムフレームを打ち出すべきである。CTBTの次のステップがFMCTであるとするなら、いつまでにFMCTを成立させ、その次に何を実施するという行程を示すべきである」というような趣旨であった。
これに対し、それまでほとんど個人の意見を出さずに機械的に議事を運営してきた議長が「各国間の意見の交換を促す建設的な意見であり、議論を活性化するために歓迎する」と発言したのが印象的であった。
この種の議論は、NPT再検討会議はもう卒業していなければならないはずだとの感想を強くした。記憶に鮮明に残っているが、2005年再検討会議においてマレーシアなど6か国が作業文書「核兵器のない世界の確立と維持のために要求される法的、技術的、政治的諸要素」(NPT/CONF2005/WP.41)(英語)を提出した。その中で、核軍縮への道筋について、「ステップ・バイ・ステップ」「包括的」「段階かつ包括的」と類型しながら、それぞれが有用である局面を述べているのである。NGOが開発したモデル核兵器禁止条約も、そのような考え方に立っている。
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