第3報 深刻に問われる日本政府の核兵器認識(2013.4.24)

第3報 深刻に問われる日本政府の核兵器認識(2013.4.24

04.24. 南ア政府(非人道性の声明を発表する南ア代表。2013年4月24日午後。撮影:RECNA)

会議3日目の午前中は、NGOの意見を聴く公式セッションに当てられた。午後には一般討論にもどって積み残しの発言が行われた。そこにおいては、8か国・グループと2国際機関が発言した。国家グループの中では南アフリカが賛同77か国(あるいは74か国)を代表して「核兵器の人道的影響に関する共同声明」を発表したのがハイライトであった。その内容と経緯の速報は、【短信2】で報告された。また、発言の中には赤十字国際委員会(ICRC)の発言もあった。一般討論は午後4時25分に終了した。その後クラスター1議題(核不拡散、核軍縮、並びに国際安全保障に関連する条項の履行問題、及び安全の保証問題)に関する討論に入った。クラスター1議題に関しては11か国・グループが発言をした。NGOセッションの報告は第4報に委ねて、第3報では24日の午後のセッションを中心に報告する。

新アジェンダ連合の存在意義を再確認

クラスター1の討論において、新アジェンダ連合(NAC)(アイルランド、メキシコ、ブラジル、ニュージーランド、エジプト、南アフリカの6か国)を代表してブラジルが、提出した作業文書「核軍縮」(WP.27)(英語)と「核軍縮における透明性の原則の適用」(WP.26)(英語)について説明を行った。1998年に結成されたこの国家連合は、今年15周年を迎える。設立声明には8か国が名を連ねたが、NATO加盟を目指すスロベニアが時を経ずして脱退し、長く7か国グループとして活動した。2000年再検討会議において全会一致の13項目合意を勝ちとった立役者として評価されている。しかし、今回スウェーデンが現在の右派政権の意思によって脱退し6か国になった。設立声明は現在もなお輝きを失っておらず、非同盟運動とは異なるリベラル中堅国家の連合として核軍縮に重要な役割を担っている。NACに注目する意義の一つは、メキシコがこのグループに下支えされることによって核軍縮・不拡散イニシャチブ(NPDI)でも役割を発揮できる構造が見えるからである。

NACの「核軍縮」作業文書は2010年合意以来の進展について整理しながら、2015年への課題を述べている点で有益である。2010年以来の進展については、米ロが新START条約によって戦略兵器の数が削減されたことを評価する一方で、「保有核兵器の近代化を継続し高性能で新型の核兵器を開発し、その目的のために巨額の投資を行っていることは、核兵器国が行った約束に違反している」と述べている。また、昨日の本ブログで日本がリードする核軍縮・不拡散イニシャチブ(NPDI)に関連して述べた「核兵器の役割の低減」に関しては、核兵器国がこれを進めていないと指摘した。そして「残念なことに、核抑止政策が核兵器国およびその軍事同盟国の軍事ドクトリンを決定づける特徴であり続けている」と述べた。このように、NACは、日本やNATOの安全保障政策が変わっていないことも指摘している。また、2010年合意で核兵器国が核軍縮について報告する義務(標準形式の追求や各国に課せられたNPT履行報告)を負ったことについても、今のところに何の前進もないと評価している。CTBTの発効についても、要件国であるインドネシアの批准があったもののその他の前進がないと指摘した。ここではすべてを紹介できないが、2010年合意の履行状況に点数をつけるさまざまなNGOの試みがある中で、この作業文書は国家グループによる核軍縮に関する2010-12年の評価書の性格をもっている。

このような評価を踏まえて、NACは次のような提案を行った。まず当然のこととして、第1報で核兵器国も意識していることを伝えたが、2010年合意の行動5の完全履行を要求した。行動5には「あらゆる種類の核兵器の備蓄の総体的削減に速やかに向かう」という約束があるが、NACは米ロに対して、配備兵器と非配備兵器、戦略兵器と非戦略兵器、の区別無く新STARTよりも前進した措置を講じるように求めている。また、核兵器国が行動21で約束した通り、報告の標準様式と頻度について優先的に合意するように要求し、報告頻度については年1回の報告が妥当であると述べた。また、注目すべき提案として、核兵器国と軍事同盟を結んでいるすべての国に対して、「集団的安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割の低減そして除去のために取られた、あるいは今後取られる措置に関して、重要な透明性と信頼醸成措置として、報告すべきである」と述べた。これは、NPDIが昨年の作業文書において述べたことを、非核兵器国に適用した点において注目されるものである。日米安保体制は集団的安全保障体制ではないが、同じ議論になるはずであろう。

「人道的影響」:配慮を加えた声明にも日本は不参加

【短信2】で伝えたように、3月のオスロ会議(127か国が参加)を踏まえて、核兵器の非人道性を訴えて核兵器廃絶を要求する新しい「核兵器の人道的影響に関する共同声明」が、午後の一般討論で発表された。賛同した国の数は発表文書(英文和訳)では74か国であるが、77か国という情報もあり、未確認である。発表の直前まで、発表者であるアブダル・サマド・ミンティ南アフリカ大使と日本政府代表が談合している姿が見られるほど、日本政府の参加については紆余曲折があった模様である。

昨年10月の35か国(34+バチカン)共同声明(英文和訳)と比較したときの重要な変化は、冒頭においてこの声明と核不拡散条約(NPT)との関連を明確に位置づけたことであろう。NPTの前文は「核戦争が全人類に惨害をもたらすものであり、したがって、このような戦争の危険を回避するためにあらゆる努力を払い、及び人民の安全を保障するための措置をとることが必要であること」という文章で始まるが、この警告こそ、壊滅的な人道的影響を自覚していた証であると声明は説いた。これによって、2010年合意文書のみならず、NPTそのものが再検討会議において人道的側面を考慮の対象にしなければならないことの根拠を与えるものとなる。

オスロ会議に127か国が参加したのは、会議が人道的結果の科学的知見を共有する場として厳しく限定的に定義されていたからであるとされる。日本政府が参加できた理由はまさにそうであったであろう。また、前の共同声明にあった「核兵器を非合法化する努力を強めなければならない」という文言が無くなったことで、今回の声明は日本政府などが受け入れやすくなる側面があったであろう。しかし、十分に非人道的側面が露わになったオスロ会議の後において、如何にして核兵器廃絶への道を描くかという次の議論は避けることのできない議論である。そして、そこに入り込むとこれまでの分岐した議論が再燃することになる。第1報で伝えた、フランスのオスロ会議に反発する激しい言説がそれを示している。

日本が賛同しなかった理由も同じような議論に行き着かざるを得ない。日本が「核兵器が二度とふたたび、使用されないことに人類の生存がかかっています」という今回の宣言の一文の、「いかなる状況下においても」に異議を唱えたと伝えられることは間違いないであろうが、言葉をいじって済む問題ではないと考えられる。「いかに非人道的あっても、日本にとっては核兵器に役割がある」という日本政府の認識が露わになったのである。これは、かくも非人道的と認識される核兵器に依存しなくても、より安全な安全保障への道があるのになぜその方向に進もうとしないのか、という問題とつながって問われ続けることになる。

【短信2】74か国が核兵器非人道性声明を発表(2013.4.24)

4月24日(水)午後の一般討論の終わり近く、74か国(77か国という情報もあり、確認中)を代表した南アフリカが、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」(英文和訳)を発表した。2012年5月の第一回準備委員会(ウィーン)での16か国声明(「核軍縮の人道的側面に関する共同声明」)(英文和訳)、10月の国連総会第一委員会(ニューヨーク)での34+1か国声明(英文和訳)に続くものである。

昨年出された2回の声明がほぼ同一の内容であったことに対し、今回の声明はタイトルを含め内容面で大きな変更を加えたものとなった。もっとも重要な点は、核兵器の「非合法化」の文言が消えたことであった。核兵器のもたらす「壊滅的な人道的結果」のみに焦点を置くことにより、より多くの署名国を獲得することを狙ったものである。禁止条約の制定へと議論が発展することを嫌う国々をも巻き込み、非人道性を基盤とした国際的な共通認識を拡大させようとの考え方は、3月4-5日に開催されたオスロ会議とも軌を一にしている。

「核の傘」依存政策との整合性から昨年の声明への署名を拒否していた日本政府の去就が注目されていたが、今回も74か国に名を連ねることはなかった。日本政府が最後まで修正を要求していたのは「核兵器が二度とふたたび、いかなる状況下においても、使用されないことに人類の生存がかかっている」の一文のなかの、「いかなる状況下においても」の文言であったとみられている。(中村)