第11報 多くの課題、そして前進への手掛かりを残して終了(2013.5.3)

第11報 多くの課題、そして前進への手掛かりを残して終了(2013.5.3

(閉会直後のフェルーツァ議長(右)。2013年5月3日。撮影:RECNA)

(閉会直後のフェルーツァ議長(右)。2013年5月3日。
撮影:RECNA)

2つの文書

2週間にわたった準備委員会も最終日を迎えた。今日は「報告書」の採択が行われる日である。昨日の本ブログで触れたように、報告書草案は、前日(5月2日)の午後6時に配布され、各国の検討に付されていた。ここで言う報告書とは、あくまで今回の準備委員会の事務的、手続き的な事項についてのレポートである。開催日程、参加国数(106か国)、議事進行、提出文書名等が書かれている。

昨晩6時においては、もう一つ別の文書が配布されていた。それが「議長の事実概要」(Chairman’s factual summary)草案である。2週間の会期中に出された各国政府のステートメントや作業文書の内容を議長が要約したものだ。

議長の事実概要は、例年の準備委員会で作成される文書であるが、これをめぐっては往々にして「ひと悶着」がある。つまり、各国政府としては自国の述べた(あるいは提出した)意見や提案が遺漏なく盛り込まれているかに最大の関心があるわけであるが、各国の見解にそもそも隔たりがあるなかで、議長の要約が「不平等」であると不満が出されるのである。過去の準備委員会においては(少なくとも2007年、2008年においては)、同様の概要について参加国の合意を得ようと試みられたがうまくいかず、結果、「作業文書」の一つとして報告書に添付されたという経緯がある。作業文書とは、会議における公式文書ではあるものの、あくまで各国や国家グループの責任で出されるものであって、全体で合意した文書ではない。つまり、作業文書にするということは、議長概要を「議長の私的なまとめ文書」と位置付けることを意味する。昨年の第1回準備委員会においては、ウールコット議長が議長概要をはじめから作業文書として提出する(=全会一致合意を目指さない)ことを選択し、議論紛糾を避ける判断を行った。

今回、各国政府に配布された草案には、明確にそれが作業文書であると示す証拠はなかった(作業文書であれば文書番号にWPの通し番号が付く)。結果的に、今日の討論のなかで議長はそれが作業文書であることを口頭で明らかにしたが、この若干のあいまいさが今日の紛糾の種となった。

議長概要に各国が反応

今朝は、通常通りの10時開始が予定されていたが、1時間以上が経過してから事務方より「非同盟諸国」(NAM)が協議中のため開始が遅れること、他方、通訳の関係で13時までにセッションを終了させなければならない旨が通告された。

結局、会議が始まったのは終了予定まで残りわずか40分となった12時20分であった。議長は慌ただしく議事を開始した。報告書については、参加国リストの最後にエジプトの途中退席の旨が加えられるなどの修正を加え、わずか15分足らずで採択が終了した。議長は各国の協力に謝意を述べ、続いて議長概要を紹介した。

これに噛みついたのがNAMを代表して発言を求めたイランである。イランは報告書が不正確かつ主観的であり、NAMとして到底受け入れられないと激しい口調で述べた。これに対し、議長からは、前述のように文書が「作業文書」であることが告げられた。

続いて20の国及びグループが発言を行った。議長の努力を称賛する国がほとんどであったが、NAMのいくつかの国は議長概要の不十分さを指摘した。特に再度発言したイランは、議長に対する個人攻撃ではないという前置きをしつつ、議長概要の作成そのものが無意味であり、今後は不必要との論を展開した。いくつかの国からは、議長概要の位置づけについて再度明確な説明を求める声もあがった。また、非人道性声明に言及した南アフリカは、本準備委員会が「核兵器をめぐる議論の大きな転換を目撃」し、核兵器使用の壊滅的結果が「国際アジェンダとして確固たる地位を築いた」と述べ、核兵器の完全廃棄に向けた各国のさらなる行動を要請した。

こうして予定時間をやや超過した13時20分、第2回準備委員会の閉会が告げられた。会場には拍手が起こった。

 議長の事実概要の内容

本ブログの第0報で今回の再検討会議で注目すべき点をいくつか挙げたが、それらについて議長概要がどのように触れているかを以下に関連部分を抜粋(暫定訳)して紹介し、コメントを加える。

オープン参加国作業グループ(OEWG
第26:複数の加盟国は、ジュネーブ軍縮会議(CD)が核軍縮に関する下部機関を速やかに設置すべきであることを想起した。多くの加盟国は、2015年再検討会議において核軍縮に関する下部機関が設置されることを求めた。これらの加盟国はまた、2015年再検討会議が特定の時間枠の中で核兵器を廃棄することをめざした行動計画を採択することも求めた。多くの国が、国連総会決議(A/RES/67/56)に従って設置されたOEWGが核兵器のない世界の達成と維持に向けた多国間核軍縮交渉を前進させるための諸提案を策定することを求めた。他の加盟国は、核軍縮に向けたステップ・バイ・ステップの貢献を再確認した。多くの加盟国は、2013年9月26日に核軍縮に関するハイレベル会議を開催するという国連総会の決定を歓迎した。それらの加盟国は、同会議が核軍縮の目標実現に寄与するものになることへの期待を表明した。

コメント:議長はこのように、核軍縮についての議論の場を①CDの下部機関、②2015年再検討会議の下部機関、③OEWG、④ステップ・バイ・ステップの議論の場、⑤9月26日のハイレベル会議と列記した。①は行き詰まっている、②は常に要求されている当然の要求で、おそらく実現、④は次元が違うが従来の繰り返しの主張であり、③と⑤が当面の具体的な新しい関心となる。③のOEWGはここジュネーブで、5月14~24日、6月27・28日、8月19~30日の間に15作業日を取って行われる。NGOも傍聴が可能であり、政府への働きかけが可能である。すでにアボリション2000に集うNGOがタスク・フォースを作って取り組みを開始している。

◆核兵器の人道的側面
第12:複数の加盟国は、核兵器のいかなる使用によってももたらされる壊滅的な人道的結果に対する深い懸念を想起した。多くの加盟国が、一発の核爆発によって引き起こされる受け入れがたい被害に言及し、社会経済的発展へのより広範かつより長期的な影響へのさらなる懸念、ならびに、現在の再検討サイクルの中でそうした人道的結果の問題が継続的に取り上げられることへの期待を表明した。多くの加盟国が、2013年3月4日から5日までオスロで開催された「核兵器の人道的影響に関する会議」に言及した。これらの加盟国は、オスロ会議での議論を受けて、核兵器が使用された場合のそうした人道的結果は不可避であり、被害地に緊急支援を行うことは不可能であることへの重大な懸念を表明した。これらの加盟国は、事実ベースの対話を通じてこの問題に関する理解を深めるためにメキシコ政府主催で開かれるフォローアップ会議への期待を示した。

第13:多くの加盟国が、核兵器のいかなる使用もしくはいかなる使用の威嚇も、国際人道法の基本原則に反することへの懸念を表明した。いくつかの核兵器国は、それぞれの国家政策の下で、いかなる核兵器の使用も、適用可能な国際人道法に従って、極限状況においてのみ考慮されることを強調した。複数の加盟国は、国際人道法を含め、適用可能な国際法をすべての国家がいかなる時も遵守することの必要性を再確認した。

コメント:締めくくりの発言の中で南アフリカが述べたように、確かに2週間の会議におけるハイライトの1つは非人道性問題への国際的な共通理解の広がりであり、メキシコ会議という具体的な次のステップに向けた期待の高まりであった。しかし一方で、この潮流が今後どのように核兵器の非合法化に結びついてゆくかについての筋道はまだ明確ではない。議長のまとめが、メキシコ会議についてもまた「事実ベースの対話を通じて」と明記していることは注目すべきことであろう。日本、韓国、オーストラリア、多くのNATO諸国らの「抵抗」の根深さもあらためて顕在化した。これらの国々をいかに説得するかについて、今後の「非人道問題」推進諸国はもちろんのこと、世界の市民の創意が必要とされている。

◆中東決議
第72節:複数の加盟国は、2012年会議の延期に失望と遺憾の意を表明した。多くの加盟国は、組織形態や議題、成果文書、作業方法、会議に関連するその他の事項についてアラブ連盟が配布した政策文書に留意した。これらの国々は、アラブ諸国がファシリテーターへの建設的な関与を行っていることへの感謝を表明した。またこれらの国々は、会議の延期に与する議論に反対し、多くの加盟国は、会議延期は2010年NPT最終文書で合意された約束に対する違反であるとの見解を示した。これらの加盟国は、会議に関する不確定な状況が本条約に及ぼすマイナスの影響について懸念を表明した。

第73節:複数の加盟国は、2010年に合意された委任事項に従って、同会議を招集することへの支援を再確認した。多くの加盟国が、可能な限り早期、かつ遅くても2013年末までに会議を招集することへの支持を表明した。また、すべての地域国家が参加して会議を成功させるには、会議の議題及び日程にコンセンサスで合意することも含め、地域国家の直接的な関与が必要であること、ならびに、そうした合意がなされ次第速やかに会議を招集すべきこととの見解も表明された。複数の加盟国は、同会議招集の期限は守られなかったものの、会議への機会は失われていないことを認識した。

第74節:加盟国は、本条約の下における義務と誓約にすべての加盟国が厳格に従うことの必要性、ならびに、1995年決議の目的実現に資するため、すべての地域国家が関連措置と信頼醸成措置を採ることの必要性を想起した。これらの国々は、すべての国家が、この目標の達成を危うくするいかなる措置を採ることも差し控えるべきことを想起した。

コメント:中東決議の履行問題をめぐる行き詰まりは、今回の準備委員会のハイライトの一つとなった。エジプトが途中で会議をボイコットしたことは、参加国全体をとりまく不信・不満や停滞感を象徴している。議長のまとめのなかに「中東会議に関する不確定な状況が本条約に及ぼすマイナスの影響」について述べた部分があるが、確かに、単に中東地域の問題としてではなく、NPT全体への影響が懸念される。議長のまとめには、多くの国が遅くても今年中の開催を望んでいると述べている。この問題の帰趨は、来年の準備委員会、ひいては2015年再検討会議に大きな影響を及ぼすと思われる。

第2回準備委員会は終了した。このブログは、NPT会議全体を万遍なく報告するというのではなく、核兵器のない世界の実現と維持に必要な国家レベルの議論の状況を伝えるという目的を持って取り組んできた。会議からは核軍縮の深刻な停滞状況が続いていると認識せざるを得ないが、そんな中でも、OEWGへの関与を初めとして、9月のハイレベル会議を含む国連総会、人道的側面のメキシコ会議などに向かって、何をなすべきかを考える材料は豊富に含まれていた。少しでも読者の役に立つ情報が含まれていれば幸いである。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA
(「地雷、クラスター弾、化学兵器、生物兵器は禁止された。次は核だ。」と折れた足の椅子のモニュメント脇に掲げられた横断幕。国連欧州本部前。4月25日午後。撮影:RECNA)

第10報 準備委員会の改善策について討論(2013.5.2)

第10報 準備委員会の改善策について討論(2013.5.2

(セッション終了後、会議場で熱心に討議する各国外交官。2013年5月2 日。撮影:RECNA)

(セッション終了後、会議場で熱心に討議する各国外交官。
2013年5月2日。撮影:RECNA)

会議9日目の朝は、何かの事情で議長がなかなか登壇せず、予定時間を大幅に過ぎた午前11時にようやく開始を告げる木槌の音が鳴った。当初からのスケジュール通り、今日の本会議は午前のクラスター3特定問題(核エネルギー平和利用、条約のその他の条項)の議論のみで、午後は明日の最終日に向けた調整時間として休みにあてられた。午前中に発言を求めた23か国・グループは、一部が昨日に引き続き「脱退問題」に言及したが、多くはNPT再検討プロセスの強化」にテーマを絞った発言を行った。

「NPT再検討プロセス」とは、再検討会議と準備委員会の開催を通じて条約の履行を加盟国が点検する多国間協議の流れのことである。条約発効後25年に開催された1995年の「NPT再検討・延長会議」は、条約の無期限延長の決定の他に2つの決定を行った。その一つが「再検討プロセス強化に関する決定」であり、5年ごとに開かれる再検討会議に先立つ3年間、毎年準備委員会を開催することを定めている。これを受けて1997年以降、ニューヨーク、ジュネーブ、ウィーンのいずれかで準備委員会が開かれてきた。

現在の再検討プロセスをいかに改善し、より実り多きものにしていくことができるか。インタラクティブな意見交換を奨励する議長の声を受けて、各国政府からはさまざまな具体的提案や意見が述べられた。

NPT準備委員会を日本で開催?

まず発言を求めたのは、過去の会議でもこのテーマで積極的な発言を行っている英国である。英国は具体的な改善案として次のような検討を各国に要請した。

・NPT準備委員会開催地の変更(より多くの政府や市民社会の参加を容易にすべく、別の地域、たとえばナイロビ、サンティアゴ、バンコクなどでの開催を追求する)。
・ウェブキャストなどの技術を通じた会議のネット中継
・最初の2回の準備委員会の開催期間の短縮
・各国の発言時間の短縮
・政府間のインタラクティブな議論や質疑の促進
・文書のオンライン公開

上記の最後の点については、昨年の準備委員会での英国の訴えが功を奏したのか、今年の準備委員会では具体的な改善が見られていた。新たに導入された「ペーパースマート」というシステムにより、これまで国連の公式ウェブでは公開されなかったクラスター発言を含め、関連文書が比較的迅速にウェブ上で一般公開されるようになったのである。

各国の論点

主な論点をいくつか紹介する。

◆会議の開催場所
日本、南アフリカ、ニュージーランド、ケニアからは、他の地域でNPT会議を開くことに前向きな発言があった。とりわけ日本は、「広島」の具体名とともに「いくつかの都市が会議誘致に関心を持つかもしれない」と述べ、政府として今後の議論に積極的に参加する意向を示した。他方、フランス、ドイツ、スペインなどからは、主にコスト増を理由に、現在の3都市以外で会議を開催することに否定的な意見が出された。ベラルーシなどからは、コスト面に加え、代表部が置かれていない都市での開催には多くの外交官や専門家を派遣しなければならず人的体制が組めないとして、同じく変更に難色が示された。

◆各国ステートメント
ドイツ、米国、フランスらは、発言時間をより厳しく制限するべきと主張した。特にフランスからは「時間を超過したらマイクの音を切れ」などのやや過激な提案があった。実際、各セッションにおいては定められた時間制限を守らない国も目立ち、とりわけイランにおいてはその傾向が顕著であった。制限時間をオーバーする国に対しては、発言機会の平等に反するという指摘もなされた。ドイツからは、声明内容の重複が避けられないとして、準備委員会における現在の「一般討論」→「クラスター」→「クラスター特定問題」の構成そのものを見直す必要性が指摘された。

◆インタラクティブな議論
ブラジル、メキシコ、スペインなどからは、予定稿をただ読むのではない、各国間の対話を求める声があがった。一方、フランスなどからは、公的な国際会議では、各国代表は本国からの訓令に基づき国としての立場を代弁するために出席しているのであり、実質的な内容についてインタラクティブな議論を行うことは不可能であるとの指摘もあった。

◆事務局
NPTの事務局は国連軍縮局が担っている。これまでも加盟国からは、運営の効率化に向けて常設の事務局を設置すべきとの声がしばしばあがっている。ウクライナがその点をあらためて指摘した。一方、フランスはコスト面を理由に反対意見を述べた。

◆準備委員会の意義
いくつかの国は、より本質的な指摘を行った。メキシコやブラジルからは、3回の準備委員会における継続性や、再検討会議に向けた準備としての準備委員会の意味そのものを問うような発言が出された。2010年再検討会議の議長を務めたフィリピンのカバクトゥラン大使は、2010年に向けた3回の準備委員会が、再検討会議に向けた具体的な勧告の検討と採択という本来の任務を果たせなかった点を振り返り、単に条約の実施状況について各国の意見を交換するだけの会議を繰り返し開催することに意味はない、と苦言を呈すとともに、2015年に向けた実質的な改善に期待を示した。

各国政府の発言のあいだには議長がしばしば言葉を挟み、インタラクティブなセッションは12時45分に終了した。

前述の通り午後のセッションはなかったが、夕方6時に「報告書案」「議長概要案」の2つの文書が配布された。これらについては明日の日報で述べる。

 

第9報 平和利用、「奪い得ない権利」を使わない選択肢(2013.5.1)

第9報 平和利用、「奪い得ない権利」を使わない選択肢(2013.5.1

(パレ・デ・ナシオンの庭にある、ウィルソン米大統領の業績を記念 して作られた天球儀。2013年5月1日。撮影:RECNA)

(パレ・デ・ナシオンの庭にある、
ウィルソン米大統領の業績を記念して作られた天球儀。
2013年5月1日。撮影:RECNA)

8日目となり、会議日程も終盤に差し掛かった。焦点の一つであった中東問題の議論が終わったからなのか、あるいは単に今日がメーデーのためなのかは不明だが、開始前の本会議場はいつもに増して閑散とし、どこか気の抜けたような印象を与えていた。

30分遅れで始まった午前セッションは、前日午後に引き続きクラスター3(原子力の平和利用)の議論にあてられた。予定では午前一杯の時間が確保されていたが、16か国が発言を終えた時点で議長が続く発言国がないことを宣言し、12時を前に閉会が告げられた。15分遅れで始まった午後は、3か国が追加的に発言を求めた後にクラスター3が終了し、15時30分、クラスター3特定問題(核エネルギー平和利用、条約のその他の条項)の議論が開始された。しかし発言を求めた国は8か国に留まり、16時20分、わずか1時間に満たずにセッションが終了した。クラスター3特定問題の議論は明日午前も続く予定である。

オーストリアの選択

クラスター3議題での各国の発言主旨は、ほぼ一致していたと言える。すなわち、第8報の後半でも述べたように、平和利用の「奪い得ない権利」と、IAEAを中心とした国際協力の必要性を再確認するとともに、IAEA保障措置、高い国際基準での安全性及び保安確保の重要性を強調するものである。とりわけ途上国からは、「奪い得ない権利」(NPT第4条)の制限につながりうるようないかなる措置も受け入れられないとの強い姿勢が示された。

福島第一原発事故についても昨日同様、安全性強化の必要性、あるいは既にとられた安全対策の紹介といった文脈での言及が続いた。その一方で、若干異なるトーンで福島の教訓をとらえていたのがオーストリアである。ちなみに同国は昨年の第1回準備委員会でもほぼ同じ趣旨の発言を行っていた(英語)。

NPT加盟国は平和利用を推進するという「奪い得ない権利」を有しているが、同時にそれを「使わない」という選択肢も有している、我が国はその選択をした、と切り出したオーストリアは、過去の事故が示すものは「原子力は決して100%安全なものにはなり得ない」という事実であると主張した。とりわけ、「核燃料サイクルに関連した長期的な影響ならびに責任という点を考えれば、原子力は持続可能な開発に貢献しない。むしろ、それは天災あるいは人災にかかわらず追加的なリスクを生んでいる」とし、「安全性、保安、さらには拡散の懸念を鑑みれば、原子力は気候変動といった他の世界的課題に立ち向かう上での有効な手段ではない」と述べた。

条約脱退をめぐる議論

クラスター3特定議題の議論では、北朝鮮核問題を背景とした「NPT脱退問題」にとりわけ焦点があてられた。NPTはその第10条1項において、「この条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認める場合」には、いずれの加盟国も条約から脱退する権利があると認めている(すべての加盟国及び安保理に対する3か月前の通告と「異常な事態」についての説明をともなうことが条件である)。

 

脱退の権利そのものについては条約上の規定として議論の余地はない。しかしNPT加盟国が平和目的の核技術や物質を軍事目的に転用し、条約脱退をもって法的義務から逃れるという「権利の濫用」を防止する必要性が繰り返し指摘されてきた。米国、EU、日本などが脱退防止策の強化や核物質の返還など脱退時に要求されるべき具体的措置を提案する一方、一部の途上国からは、そうした措置が脱退の権利の侵害につながるとの反論がなされてきた。午後の最後に短く脱退問題に触れたブラジルや南アフリカの発言にもそうした警戒感は色濃く示された。この問題は2010年再検討会議での争点の一つでもあり、引き続き2015年に向けても焦点化してゆくと思われる。

第8報 原子力平和利用の行方(2013.4.30)

第8報 原子力平和利用の行方(2013.4.30

スイス政府主催の非人道性問題に関するサイドイベントの様子。2013年4月30日。撮影:RECNA

(スイス政府主催の非人道性問題に関するサイドイベントの様子。2013年4月30日。撮影:RECNA)

会議7日目の午前中は、クラスター2特定議題(中東など地域問題)であったが、議事の開始が20分程遅れ、冒頭フェルーツァ議長より、準備委員会への出席を拒否しているエジプトが議事に復帰することを強く期待しており、エジプト抜きで中東問題を検討することは可能な限り回避したいので、先に中東以外の地域に関する議事を行いたい旨の提案があり、了承された。その間に議長の意を受けて、誰かがエジプトの説得に当たっている様子であった。したがって、まず中東以外の地域について、5か国が発言を行い、さらに、その発言に対して、イランと日本が、自国に向けられた批判に対する反論を行った。(日本とイランの応答については、「短信8」参照)結局「その他の地域」に関する検討は30分程で終了し、その後、結局エジプト欠席のまま中東に関する議事が10時50分から再開され、27か国が発言、最後に中東会議ファシリテーターのラーヤバ大使から短い発言があり、午前中の議事とクラスター2特定議題の検討を終了した。午後は、クラスター3(原子力の平和利用)に移り、発言したのは20の国・グループである。また、最後にシリアが自国に対する批判に対し、反論した。

中東問題へ議論が集中

クラスター2特定議題については、前日のエジプトのボイコット宣言の余波が残っている感じで、議長の議事運営ぶりからも、「この際、他の地域のことは脇に置いて、中東問題だけでも何らかの見通しをつけておきたい」という意向がはっきりと窺えた。すでに多くの国が一般演説やクラスター1で北朝鮮の問題に言及してこともあり、日、米、韓が再度北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルの開発を放棄すべきであると強調した他は、南アジアとイラン、シリアに若干の言及があった程度で、ほとんどの国が発言を見送り、中東問題に可能な限り議論を集中したいとの議長の意向に協力した。結果として、中東問題の深刻化の影響を受けて北東アジアの問題は事実上棚上げで、単に各国の北朝鮮批判の羅列に終わってしまった。同時に二つの大きな地域的な問題を扱うのは、やはり限られた時間の中では難しいのかもしれない。しかし、2015年の再検討会議は、会期が十分にあり、北東アジアの問題にも時間を充てることは物理的には可能であろう。それまでに北東アジア非核兵器地帯に関する議論を、各国に間にどれだけ浸透させることができるかが課題である。

前日と同様に、中東とNAMの国々は、中東非大量破壊兵器地帯が1995年のNPT無期限延長の条件であったとして、その実施に具体的な進展が見られないこと、昨年予定されていた会議が、突然一方的に延期されたこと、会議の新しい日程やアジェンダ、具体的な成果の見通し等が一切明確にされていないことに対し、そろって強い不満を表明した。これに対し、西側諸国を中心に、中東情勢の厳しさから、会議の延期 に一定の理解を示す国々もあったが、発言したすべての国が会議の早期開催、具体的には2013年末までの開催を要求した点では、同じであった。これに対しラーヤバ大使より、依然としてすべての国が中東会議の開催を支持していること、イスラエルを含む中東すべての国が準備作業への参加を表明していることを挙げ、会議の推進に対するコンセンサスは維持されているという見方を示し、準備作業を継続すると述べた。

クラスター3:原子力の平和利用

原子力の平和利用については、原子力の平和利用の権利はすべての国家が有する奪うことのできない権利であり、すべての国が原子力の平和利用から得られる利益を享受すべきであるという点、および国際社会において、その実現に対して中心的な役割を果たすのがIAEAであり、IAEAを強化すべきという方向性において、意見はほぼ一致している。また、原子力の平和利用に際しては、IAEAの保障措置、国際的な基準に基づく安全性およびセキュリティの確保が、「三点セット」であることも、確認された。福島第一原発の問題に言及した国も散見されたが、それは福島第一原発を重要な教訓として活用すべきとの意見であり、福島第一原発の問題が原子力の平和利用の推進に障害になるという見解を示した国は現時点では見当たらなかった。

午後の議論で特徴的だったのは、原子力の平和利用において、「非エネルギー分野」での平和利用の推進の検討に多くの時間が割かれたことであろう。放射線やラジオアイソトープを、医療、保健衛生、畜産、農業、食糧生産、環境保全等、様々な分野に応用し、開発途上諸国の経済社会開発に役立てるべきであるとの主張である。この主張そのものは妥当な内容であり、先進国側も概ね同調した。しかし、そのための国際協力の中心となるIAEAは、本来開発援助機関として設立されたものではないため、開発途上諸国に対するこの分野の開発援助は、通常予算ではなく各国の自発的拠出金で賄われている。そのために、予算が不安定で、規模も必ずしも大きくないという制約がある。その点に関し、開発途上諸国側からは、開発援助をIAEAの主要業務とすべきであるとの主張が相次いだ。IAEAの強化という点については、異論が出ていないものの、保障措置と不拡散に関する分野を重視する先進国側と、開発援助を重視する開発途上諸国側との間には、隔たりが感じられた。確かに開発援助は現在の国際社会において重要な分野であり、IAEAがその能力を強化することは歓迎すべきことであろうが、保障措置の実施や、原子力安全の確保のような、本来の業務が後回しになるような事態は避けなければならないだろう。

【短信8】イラン、日本の核保有の意図の検証を要求(2013.04.30)

【短信8】イラン、日本の核保有の意図の検証を要求(2013.04.30)

30日午前のクラスター2特定議題の冒頭ではエジプトのボイコット問題に対処する時間がほしいという議長の意向で、「中東以外」の地域問題に関する発言が先に行われた。

まず、日本、米国、英国、韓国、オーストラリアが発言し、北朝鮮、イランの核問題を中心に早期の平和的解決の必要性を訴えた。

続いて発言を求めたイランのソルタニエ大使は、これらの国々のアプローチがNPT加盟国の協力関係を損なう「ダブルスタンダード」であり、「対立的姿勢を止めるべき」と強い口調で非難した。

ここまではいわばNPT会議での「よくある光景」と言えなくもない。

しかし昨日のイランが、そうした批判のなかでも特に激しく日本を「やり玉」にあげていたことを紹介しておきたい。イランは、東京都知事が数年前に核武装の可能性について言及したこと、日本が大量のプルトニウムを保有していること等を指摘し、「しかるべき国際機関が日本の核武装の意向の有無について確認することを求める」と述べたのである。

これには即座に日本政府が反応し、都知事発言については承知していない、日本はNPTを完全遵守しており、IAEAにより平和利用が担保されている、との旨が述べられた。

イランの主張の正当性はともかく、ここで立ち止まって考えるべきは、日本の「道義的権威(モラル・オーソリティ)」ではないだろうか。

都知事に限らず日本の政治家の間でしばしば聞かれる「核武装発言」や、余剰プルトニウムを生み続けている日本の核燃料サイクル政策について、しばしば日本国内ではそれを「国内問題」の枠で議論しがちである。しかし実際問題として、他国から不信を抱かれかねない日本の発言や政策は、国際舞台における日本の発言力を損なわせるという深刻な結果を生んでいる。これはもちろん「核の傘」依存政策にも言えることだ。

本来であれば、「唯一の戦争被爆国」として、日本はどの国よりも堂々と、ゆるぎない説得力をもって核拡散問題に立ち向かうことができるはずである。それが、たとえ「言いがかり」に過ぎないとしても、イランの発言のように、「では日本はどうなのだ」と突きつけられてしまう現実があることを日本の私たちは知るべきではないだろうか。(中村)

【短信7】会議をボイコットするエジプトの言い分(2013.04.30)

【短信7】会議をボイコットするエジプトの言い分(2013.04.30)

エジプトが、4月29日午後の発言によって、その後の会議をボイコットしたことは【短信5】で伝えた。そこにも書かれているように、準備委員会が始まる前まで、アラブ・グループのなかで準備委員会全体をボイコットすべきという深刻な議論があった。ここでは、4月23日の一般討論の中でエジプトが述べていた議論(英語)を紹介しておく。

エジプトは「NPTにおける中東問題の重要性はNPTの4番目の柱と呼ばれるほどだ」と歴史的経過を指摘した。「アラブ諸国は中東に核兵器の無い中東を実現するという希望を持ってNPTに参加している。にもかかわらず、30年以上が経ってもイスラエルはNPTに参加していない。」

エジプトのみならず、多くの国が自覚していることであるが、1995年のNPT再検討・延長会議において、NPTの無期限延長が全会一致で合意されたのは中東決議が同時に採択されたからであった。つまり、今日あるNPTはその一部として中東決議を内包している。とくにエジプトは、その後新アジェンダ連合に参加してNPTの合意履行に積極的に貢献してきたという自負がある。そしてやっと、2010年再検討会議の合意によって、中東決議を履行するための地域のすべての関係国が参加する会議を2012年中に開催することを決めた。一歩進みだしたかに見えた。にもかかわらず、それが実現できなかった。その後の経過をエジプトは次のように批判した。

「(会議準備の)措置を直ちにとるのではなく、(会議召集の)ファシリテーターが指名され会議のホスト国が決まるのに1年も費やした。アラブ諸国はファシリテーターと積極的に関与し、イスラエル以外のすべての地域の国が2012年会議への参加を表明したにもかかわらず、招請者は一方的に、地域国家に相談することもなく会議の延期を決定した。この延期は2010年行動計画に対する誓約違反である。<合意を守れ>という厳しい要求にもかかわらず、今日まで新しい日程は示されていない。」

エジプトの発言の中で注目されるのは、アラブの春で起こっている市民的要求の高まりに言及し、核に関する中東の現状を一刻も早く解決しなければならないと主張している点である。会議の招集者は、米、ロ、英、国連の4者であるが、準備委員会における今後の議論を注視したい。(梅林)